「インプラントはやめた方がいい」と話す歯科医がいる一方で、「インプラントは優れた治療法」と勧める歯科医もいます。同じ歯科医でも意見が分かれるとしたら、それはどんな理由からでしょうか?

ここでは、そうした意見の背景にある理由を5つにまとめてご紹介していきます。インプラントについて検討する際のご参考にしてください。

インプラントには天然の歯にある防御機能がない?

インプラントと天然歯の大きな違いのひとつ、それは「歯根膜(しこんまく)」という組織の有無にあります。 歯根膜は、歯の根とあごの骨の間にある薄いクッションのような組織ですが、その役割は非常に重要です。

例えば、噛んだときの衝撃を吸収してダメージを和らげたり、栄養を届けて歯周組織の健康を守ったり、さらには細菌の侵入を防ぐバリアとしても機能します。また、圧力や刺激を感じ取る「センサー」としての役割も持っています。 これらの働きのおかげで、天然歯は衝撃に強く、高い防御力と繊細な感覚を維持できているのです。

一方で、インプラントにはこの「歯根膜」が存在しません。人工のネジ(フィクスチャー)を、あごの骨に直接埋め込む構造になっているためです。

その結果、天然歯に比べて以下のようなリスクが生じやすくなると言われています。

  • 細菌への抵抗力が弱く、「インプラント周囲炎」になりやすい
  • 噛んだ衝撃が骨に直接伝わるため、噛み合わせやあごへ負担がかかる
  • 感覚がないため異常に気づきにくく、トラブルの発見が遅れる

しかし、だからといって「インプラント=危険」というわけではありません。

定期検診でのプロによるチェックと清掃、力がかかりすぎないような噛み合わせの調整、そして毎日のセルフケアがしやすい形状にすること。 こうした点にしっかりと気を配ることで、10年以上トラブルなく快適に使い続けている方もたくさんいらっしゃいます。 現在では技術も進化し、衝撃を吸収する構造や、細菌の侵入を防ぎやすい表面加工など、失われた歯根膜の役割を補うための工夫も凝らされています。

インプラントは「歯根膜がない」という構造的な特徴を持ちますが、その特性を正しく理解し、適切な対策をとることで大きなリスクは回避できます。天然の歯とまったく同じではないからこそ、その違いを知って丁寧に向き合っていくことが、インプラントと長くうまく付き合うコツです。

老後に「時限爆弾」になる!?寝たきりになったときのリスク

今はご自身でしっかり歯磨きができていても、「将来、もし寝たきりや要介護状態になったら……」と不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。実際、介護の現場ではインプラント特有のトラブルが報告されることもあります。

インプラントは天然歯と比べて構造が複雑で、ケアには専用のブラシが必要になるなどコツがいります。そのため、ご自身でのお手入れが難しくなり、誰かの介助が必要になった時に、次のような問題が起きやすくなります。

  • 汚れがたまりやすく、炎症(インプラント周囲炎)を起こしやすい
  • 介護スタッフやご家族が、専門的な清掃方法を把握しきれない
  • 結果として口内の細菌が増え、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスクが高まる

特にご高齢の方の場合、免疫力の低下も相まって、口の中のちょっとした炎症が全身の健康に関わるトラブルへ発展することもあるため、注意が必要です。

また、加齢や病気によって、インプラント以外の天然歯が先に抜けてしまうケースも考えられます。そうすると、こんな困った状況になることがあります。

  • 「丈夫なインプラントだけが、飛び石のように数本残っている」という状態になる
  • いざ入れ歯を作ろうとしても、残ったインプラントが邪魔で安定しない
  • 無理に入れ歯を使うと、インプラントが粘膜に当たって痛みや傷の原因になる

この「インプラントが将来の入れ歯治療の妨げになる」という逆転現象は、治療を受ける時点ではなかなかイメージしづらいものですが、現場では決して珍しいことではありません。

ですが、こうした将来のリスクも、事前の計画で備えることが可能です。

  • 将来、入れ歯になる可能性も見越して設計する
  • 必要に応じて撤去しやすい、あるいは入れ歯の支えに転用できるタイプを選ぶ
  • 訪問歯科診療や口腔ケアの専門家と連携しやすい体制を確認しておく

近年では訪問歯科の体制も整いつつあり、寝たきりの方へのインプラント管理も以前より行いやすくなっています。

インプラントは素晴らしい治療法ですが、すべての方にとってベストな選択とは限りません。 特に持病をお持ちの方や、将来の介護に不安がある方は、その懸念を正直に歯科医師へ伝えてください。インプラントは単に歯を補うだけでなく、「その後の人生設計」まで含めて考えるべき選択肢なのです。

入れるのは簡単、外すのは大変? 知っておきたい出口戦略

インプラントは、失った歯の機能を取り戻すうえで非常に優れた治療法です。しかし、そのメリットの裏で意外と語られないのが、「もし将来トラブルが起きたらどうするのか?」「ダメになった時にどう対処するのか?」という、“出口”についてのお話です。

実はインプラントには、「入れるのは比較的簡単でも、外すのは非常に難しい」という現実があります。

インプラントは、チタン製の人工歯根をあごの骨と直接結合させる治療です。この「骨とガッチリくっつく」性質こそが丈夫さの理由なのですが、いざ撤去するとなると、これが逆に大きなハードルとなります。

  • 除去するためには、再び外科手術が必要になる
  • 結合が強固な場合、周りの骨ごと削り取る必要があり、体への負担が大きい
  • 外した後に骨が大きく減ってしまい、次の入れ歯が安定しにくくなる

こうしたリスクがあるため、安易に埋入してしまうと、後々苦労することになりかねません。 しかし、これらは「いつか外す時が来るかもしれない」と想定して設計することで、リスクを最小限に抑えられます。

例えば、以下のような選択肢や技術があります。

  • 撤去時の負担が少ない、取り外し可能なタイプなどを選ぶ
  • 骨のダメージを最小限に抑える器具(ピエゾサージェリーなど)を導入している医院を選ぶ
  • 最新のCTや3Dシミュレーションでリスクを可視化し、無理のない本数や位置を計画する

インプラントは、正しくケアすれば10年、20年と長持ちすることも珍しくありません。しかし、加齢による体質の変化や病気、お手入れ不足などが原因で、どうしても維持できなくなる可能性はゼロではありません。

「一生絶対に持つ」という保証がないからこそ、輝かしいメリットだけでなく、「もしもの時にどう対応できるか(撤去やリカバリーの方法)」まで含めて話し合っておくこと。それが、将来後悔しないための大切なポイントです。

「インプラントは金儲け?」 歯科医師の方針の違いと、後悔しない見極め方

「インプラントは儲かるから勧められているのでは?」 そんな噂や不安を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、保険診療に比べて自費診療であるインプラントは、医院側の利益率が高い傾向にあるのは事実です。悲しいことですが、本来なら「根管治療(歯の根の治療)」などで残せるはずの歯を、「手間がかかるから」「再発しやすいから」といった理由で抜歯し、早急にインプラントを勧めるケースが全くないとは言い切れません。

専門的な知識がない患者さんにとって、提示された治療方針が本当に自分のためのものなのか、判断するのは非常に難しいことです。

一方で、誠実で信頼できる歯科医院は、まず「今ある歯をどう残すか」に全力を注ぎます。

  • 根管治療や、一度抜いて処置して戻す「再植術」など、歯を活かす可能性をギリギリまで探る
  • インプラントはあくまで、歯が残せなかった場合の“最後の手段”として位置づける
  • メリットだけでなく、リスクやデメリットも包み隠さず伝える

こうした姿勢の医院であれば、患者さんも納得した上で治療を選べるため、結果として満足度も高くなります。

もし提案された内容に「利益優先かも……」と違和感を覚えたら、以下のポイントをチェックしてみてください。

  1. セカンドオピニオンを活用する 別の歯科医師の意見を聞くことで、「実は歯を残せる可能性があった」と分かることもあります。
  2. 治療の選択肢が複数あるか確認する 入れ歯やブリッジなどの説明がなく、「インプラント一択」しか提示されない場合は要注意です。
  3. リスクの説明があるか 良い面ばかりを強調し、将来のリスクについて触れない医院は、慎重に判断したほうが良いでしょう。

インプラントは高額で、身体への介入も大きい治療です。だからこそ、「先生に言われたから」ではなく、「自分自身が納得して選んだ」という実感が、治療後の後悔をなくす鍵となります。

「この先生なら信頼できる」と思えるパートナーに出会えるまで、焦らず情報を集めたり、質問を重ねたりしてみてください。インプラント自体は悪いものではありませんが、誰に託すかという「選び方」はとても大切です。

金属アレルギーや全身への影響は? 素材と体質の相性も大切

インプラント治療では、あごの骨に「チタン」という金属のネジ(人工歯根)を埋め込むのが一般的です。チタンは骨と結合しやすく、アレルギーを起こしにくい「生体親和性の高い素材」として医療の現場で広く使われていますが、すべての人にとって100%無害とは言い切れません。

実は、ごく稀ではありますが、チタンに対してアレルギー反応を示す方もいらっしゃいます。

  • 症状の例:
    手のひらや足の裏に水疱ができる、発疹が出る、口の中に違和感があるなど
  • 発症のきっかけ:
    体調の変化や免疫バランスが崩れたタイミングで、突然発症することも

そのため、過去にピアスやネックレスなどで金属アレルギーを起こした経験がある方は、念のために事前のパッチテスト(アレルギー検査)を受けることをおすすめします。

また、科学的な定説とまでは言えませんが、一部では「電磁波」との関連を懸念する声もあります。 口の中の金属がアンテナのような役割を果たし、頭痛やめまいといった不調(電磁波過敏症など)につながる可能性を指摘する医師もいます。これらは一般的な医療現場では否定的な見解が多いものの、原因不明の体調不良に敏感な方にとっては、不安材料の一つになるかもしれません。

こうした不安に応えるため、最近では金属を一切使わない「ジルコニア(セラミック)製」のインプラントも登場しています。 見た目が白く美しいうえ、金属アレルギーの心配がないのが大きなメリットですが、一方で課題もあります。

  • 対応している歯科医院がまだ少ない
  • チタンに比べて治療実績のデータが少ない
  • 細かい調整が難しいケースがある

インプラント治療を検討する際は、歯の状態だけでなく、全身の健康や体質とのバランスを見ることが非常に大切です。

ご自身のアレルギー体質、将来の健康への考え方、そして「体の中に金属を入れる」ことへの心理的な抵抗感。 こうした要素をトータルで考え、メリットとデメリットを天秤にかけた上で、歯科医師と相談して納得のいく素材や治療法を選んでいきましょう。

「インプラントはやめておけ」の真意とは? 後悔しない未来のために

ここまで、インプラントに伴う様々なリスクやデメリットについて触れてきました。 歯科医師たちが口にする「インプラントはやめておけ」という言葉。その真意は、決して治療法そのものを全否定しているわけではありません。

彼らが警鐘を鳴らしているのは、「リスクを知らないまま、安易に選ぶこと」への危惧です。

インプラントは、入れ歯やブリッジにはない素晴らしいメリットを持つ治療法です。しかし同時に、外科手術を伴い、異物を体内に埋め込み、メンテナンスが一生続く「重い決断」でもあります。 だからこそ、目の前の「歯が入る喜び」だけでなく、10年後、20年後の自分を想像してみてください。

  • 体質や持病への影響はないか?
  • 将来、介護が必要になった時に管理できるか?
  • 何かあった時に、誠実に対応してくれる歯科医院か?

「失った歯を取り戻す」ことだけに目を向けるのではなく、「その後の人生をどう快適に過ごすか」という視点を持つことが何より大切です。

本当に良い歯科医師は、メリットだけでなく、あなたにとって都合の悪いリスクや将来の懸念点もしっかりと話してくれるはずです。 インプラントは、正しく理解し、正しく扱えば、人生を豊かにしてくれる強力なパートナーになります。

「勧められるがまま」ではなく、「自分自身で納得して選ぶ」。 この記事が、あなたにとって最良の治療法を見つけるための、ひとつの判断材料になれば幸いです。

※医療広告ガイドラインに基づき、自由診療に関する費用および治療に伴うリスク・副作用等の情報を以下に記載しております。

インプラント治療とは

歯を失った部分の顎の骨に人工歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工歯を装着する治療法です。顎の骨に固定されるため、天然歯に近い噛み心地や見た目を再現できるのが特徴です。

手術によるインプラント体の埋入後、骨と結合するまで数か月間の治癒期間を経て、上部構造(人工歯)を取り付けます。

インプラント治療に関する費用

内容メーカー/処置費用(税込)
上部構造(人工歯)ジルコニア/ハイトランス¥143,000
ジルコニアステイニング¥154,000
ジルコニアレイヤリング¥176,000
インプラント体(人工歯根)プラトン¥264,000
ネオデント¥297,000
ストローマン¥330,000
追加処置サージカルガイド¥66,000
ソケットリフト骨造成(GBR)¥55,000/本
サイナスリフト¥110,000

インプラント治療に伴う主なリスク・副作用

インプラント治療は、失った歯の機能や見た目を回復するための効果的な方法ですが、以下のようなリスクや副作用を伴う可能性があります。

  • 術後の痛み・腫れ・出血・内出血・感染症
  • 神経や血管の損傷による知覚異常・麻痺・大量出血
  • 上顎洞の損傷による蓄膿症などの副作用
  • インプラントが骨と結合せず再手術や除去が必要になる場合
  • 糖尿病や骨粗鬆症など全身疾患によるリスク増加
  • 口腔衛生不良によるインプラント周囲炎と脱落のリスク
  • 食べ物の詰まりやすさ・噛み心地の違和感・高額な費用・長い治療期間

これらのリスクをできる限り回避し、安心してインプラント治療を受けていただくためには、経験と実績のある歯科医院を選ぶことが重要です。

北村 英二(きたむら えいじ)
歯科医師/北村総合歯科 院長

1998年、日本大学松戸歯学部卒業。藤井病院歯科・口腔外科部長、水口歯科クリニック新宿院長を経て、2021年に「北村総合歯科」を開業。
「歯科が苦手な方にも安心して通ってもらえる医院づくり」を理念とし、痛みに配慮した丁寧な診療と患者との信頼関係を大切にしている。診療方針の柱は、再治療のリスクをできる限り抑えた“根本的な治療”と、できるだけ歯を削らず・抜かずに「自分の歯を守る」ための医療提供。口腔外科での豊富な臨床経験を活かし、短期的な対処に終始しない長期的な視点での治療を重視している。