「インプラントには歯根膜がないから、やるべきではない」

ネットで、こうした意見を見かけることがあります。確かに、インプラントに歯根膜はありませんし、それによるデメリットも存在します。

では、歯根膜が存在しないからインプラントは本当にやらない方が良いのでしょうか?また、インプラントに代わる理想的な治療法は他にあるのでしょうか?

この記事ではその辺りを深掘りしていきたいと思います。

そもそも歯根膜とは?クッションとセンサーの役割

歯根膜とは、歯の根とあごの骨の間にある薄い膜状の組織です。わずか0.2ミリほどの厚みですが、いくつもの大切な役割を担っています。

  • 噛んだときの衝撃を吸収するクッション
  • 噛む力や硬さを感じ取るセンサー
  • 細菌の侵入を防ぐバリア

天然の歯は、この歯根膜に守られています。

歯根膜がないからインプラントがダメだと言われる理由

この歯根膜がインプラントにはないことで、次のようなデメリットが指摘されています。

噛んだ衝撃があごの骨に直接伝わる

インプラントは、人工歯根があごの骨と直接結合しています。歯根膜というクッションがないため、噛んだ力がそのまま骨に伝わります。

天然の歯が噛むたびにわずかに沈み込むのに対し、インプラントは沈み込みません。何も配慮せずに天然の歯と同じ高さで噛み合わせを作ると、インプラントに強い力が集中してしまうことがあります。

噛みごたえや異常を感じ取りにくい

歯根膜のセンサーがないため、噛む力の加減や噛みごたえを感じ取りにくくなります。

天然の歯であれば、噛み合わせがおかしいときに「変だ」と気づけます。しかしインプラントでは感覚が鈍いため、異常があっても気づきにくく、発見が遅れることがあります。

細菌への抵抗力が弱い

歯根膜には血液が流れており、細菌が入り込もうとすると免疫の力が働きます。この防御機能が、インプラントにはありません。

そのため天然の歯よりも細菌への抵抗力が弱く、インプラント周囲炎という炎症が起きると、進行が早い傾向にあります。

矯正治療で動かすことができない

歯根膜があるからこそ、天然の歯は矯正治療で動かすことができますが、骨と直接結合しているインプラントは、動かすことができません。

将来的に矯正治療を考えている場合、インプラントを入れた場所が制約になることがあります。

以上が、インプラントに歯根膜がないことで起こりうることです。

他の治療法は、失った歯根膜が戻るのか?

「インプラントは歯根膜がないからダメだ」と言うのであれば、歯根膜のある治療法を選べばよいことになります。歯を失った場合、インプラントのほかにブリッジと入れ歯という選択肢があります。これらなら歯根膜は戻るのか、それぞれ見ていきます。

ブリッジ

ブリッジは、失った歯の両隣にある健康な歯を削って土台にし、橋をかけるように人工の歯を固定する方法です。取り外しの必要がなく、安定して噛めます。

ただし、健康な歯を削る必要があります。そして、失った歯の分の噛む力を、土台にした歯が肩代わりします。つまり、両隣の歯の歯根膜に、余分な負担がかかり続けます。

入れ歯

部分入れ歯は、残っている歯にバネ(金具)をかけて固定します。取り外して洗える手軽さや、比較的費用を抑えやすいという利点があります。

ただし、バネをかけた歯には、入れ歯を支えるための力がかかります。この負担も、その歯の歯根膜が受け止めることになります。

ブリッジも入れ歯も、失った歯の歯根膜が戻るわけではありません。では、3つの治療法は何が違うのか。周りの歯やお口の中に与える影響という面で比べると、次のようになります。

ブリッジ入れ歯インプラント
周りの歯を削る必要(両隣の歯を削る)削らない削らない
周りの歯への負担大きい(土台の歯が支える)あり(バネをかけた歯にかかる)なし(独立して支える)
あごの骨への影響骨がやせやすい骨がやせやすい骨を保ちやすい
歯を失った部分の歯根膜戻らない戻らない戻らない

こうして並べてみると、3つの治療法の違いは「周りの歯にどれだけ手をかけるか」に集約されることが分かります。歯根膜がない部分を補うという点は、どの治療法も同じです。

むしろ、ブリッジと入れ歯は、そのために健康な歯を削ったり、負担をかけたりします。つまり、歯を失った部分を補うために、今ある健康な歯の寿命を縮めてしまうおそれがあるのです。

ここで、選択が見えてきます。健康な歯に負担をかけてでも、歯根膜のない部分を補うのか。それとも、周りの歯には手をつけず、歯根膜がないというインプラントのデメリットを受け入れるのか。どちらも「歯根膜がない」という条件は同じ。違うのは、そのために周りの健康な歯に負担をかけるかどうかです。

※あくまで「周りの歯やお口の中への影響」という面での比較です。費用や治療期間、手術の有無などは含みません。

残っている歯の歯根膜を守れるのがインプラント

ブリッジと入れ歯は、残っている健康な歯を削ったり、支えにしたりすることで成り立っています。つまり、残った歯の歯根膜に余分な負担をかけながら使う治療法です。

一方でインプラントは、あごの骨で独立して支えられます。周りの歯を削る必要も、支えにする必要もありません。残っている歯の歯根膜には、手をつけずに済みます。

インプラントには歯根膜がない。これは事実です。しかし、失った歯の歯根膜がどの治療法でも戻らない以上、本当に考えるべきなのは「残っている歯の歯根膜をどう守るか」ではないでしょうか。

その点において、現時点の歯科医療では、インプラントが最も他の歯に負担をかけにくい治療法だと私たちは考えています。

もちろん、あごの骨の状態や全身の健康状態、費用、手術への不安など、状況によって適した治療法は異なります。ブリッジや入れ歯が適している場合もあります。大切なのは、それぞれの特徴を理解した上で、納得して選んでいただくことです。

当院での歯根膜を考慮した噛み合わせ調整

歯根膜がないというデメリットに対して、歯科医院側にできる配慮があります。

当院の場合は、インプラントの噛み合わせを天然の歯よりもわずかに低めに調整しています。ぐっと強く噛みしめたときに、周りの歯と同じように当たるよう設計する。そうすることで、普段の軽い噛み合わせではインプラントへの負担を抑え、強く噛んだときには周囲の歯と力を分担できます。

特に、食いしばりや歯ぎしりの強い方は、インプラントにかかる力も大きくなります。お一人お一人の噛み方の癖を見ながら調整していきます。

また、噛み合わせは時間とともに変化します。センサーがないぶん、ご自身では異常に気づきにくいからこそ、治療後の定期的なチェックが欠かせません。

気になる情報を見て不安になったときこそ、どうぞお気軽にご相談ください。良い面も、そうでない面も含めてご説明します。

※医療広告ガイドラインに基づき、自由診療に関する費用および治療に伴うリスク・副作用等の情報を以下に記載しております。

インプラント治療とは

歯を失った部分の顎の骨に人工歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工歯を装着する治療法です。顎の骨に固定されるため、天然歯に近い噛み心地や見た目を再現できるのが特徴です。

手術によるインプラント体の埋入後、骨と結合するまで数か月間の治癒期間を経て、上部構造(人工歯)を取り付けます。

インプラント治療に関する費用

内容メーカー/処置費用(税込)
上部構造(人工歯)ジルコニア/ハイトランス¥143,000
ジルコニアステイニング¥154,000
ジルコニアレイヤリング¥176,000
インプラント体(人工歯根)プラトン¥264,000
ネオデント¥297,000
ストローマン¥330,000
追加処置サージカルガイド¥66,000
ソケットリフト骨造成(GBR)¥55,000/本
サイナスリフト¥110,000

インプラント治療に伴う主なリスク・副作用

インプラント治療は、失った歯の機能や見た目を回復するための効果的な方法ですが、以下のようなリスクや副作用を伴う可能性があります。

  • 術後の痛み・腫れ・出血・内出血・感染症
  • 神経や血管の損傷による知覚異常・麻痺・大量出血
  • 上顎洞の損傷による蓄膿症などの副作用
  • インプラントが骨と結合せず再手術や除去が必要になる場合
  • 糖尿病や骨粗鬆症など全身疾患によるリスク増加
  • 口腔衛生不良によるインプラント周囲炎と脱落のリスク
  • 食べ物の詰まりやすさ・噛み心地の違和感・高額な費用・長い治療期間

これらのリスクをできる限り回避し、安心してインプラント治療を受けていただくためには、経験と実績のある歯科医院を選ぶことが重要です。

北村 英二(きたむら えいじ)
歯科医師/北村総合歯科 院長

1998年、日本大学松戸歯学部卒業。藤井病院歯科・口腔外科部長、水口歯科クリニック新宿院長を経て、2021年に「北村総合歯科」を開業。
「歯科が苦手な方にも安心して通ってもらえる医院づくり」を理念とし、痛みに配慮した丁寧な診療と患者との信頼関係を大切にしている。診療方針の柱は、再治療のリスクをできる限り抑えた“根本的な治療”と、できるだけ歯を削らず・抜かずに「自分の歯を守る」ための医療提供。口腔外科での豊富な臨床経験を活かし、短期的な対処に終始しない長期的な視点での治療を重視している。